胃潰瘍治療薬

 胃酸など消化液は、口から摂取した食物を強力に消化します。仮に胃粘膜に防御因子が無ければ、胃粘膜といえじ無事ではすみません。防御因子が不十分な体制のときに胃酸で粘膜が攻撃されると粘膜は傷つけられます。

 胃潰瘍は、ストレスによって自律神経が正常に動かなくなり、消化液と胃粘膜の防御因子とのバランスが崩れる事が原因と考えられてきました。

通常、胃酸は食物が胃に入ったときに分泌されるのですが、空腹時などに分泌される事もあります。しばしば、空腹時での胃痛、胃酸分泌などがあり、食物を摂れば楽になるという症状も現れます。

 抗コリン剤は、胃の分泌を抑制し、胃の収縮を抑えます。市販の胃潰瘍の薬には、制酸剤と、痛みを抑えるために、ロートエキスなどがよく使用されています。

 胃潰瘍治療薬としての考え方には、胃酸を抑えるということと、胃粘膜の防御因子を増やすことの二つのアプローチとともに、精神的ストレスが原因と考えて精神安定剤の成分の物も開発され、自律神経安定剤も併用されます。

制酸剤 胃酸を抑えるものには、胃酸を中和するものと、胃酸の分泌を抑制するものがあります。一般的に制酸効果のある薬品については上述しました。ここでは、胃潰瘍治療薬(胃炎にも使用するものもあります)を紹介します。

H2ブロッカー従来、胃潰瘍治療薬は、胃酸をコントロールする薬をメインに開発されてきました。胃粘膜を攻撃するものが、主に胃酸であると考えられてきたからです。
 胃からの胃酸分泌をコントロールするものは、自律神経以外に、ヒスタミン、ガストリンなどのオータコイド(体内で少量で、大きな生理作用のある物質で、ビタミン、ホルモンでないもの)があります。
 ヒスタミンは、アレルギーなどときに遊離される伝達物質ですがアレルギーや免疫機能に関与するばあい、ヒスタミンの受容体はH1レセプターというのですが、胃にもヒスタミンの受容体があり、これをH2レセプターといいます。
 胃のH2レセプターにヒスタミンが反応すると、胃酸が分泌されます。そこで胃のH2レセプターにヒスタミンが結合するのを妨害する物質が考えられました。
 これがH2ブロッカーという胃酸分泌抑制剤です、H2ブロッカーは、現在胃潰瘍治療薬としてメインに使用されています。
 シメチジン(タガメットカイロックなど多数)、ファモチジン(ガスター)、塩酸ロキサチジン(アルタット)、ニザチジン(アシノン)、ザンタック(三共)などがあります。
 副作用としては、ショックなどのアレルギー反応、血小板減少、肝障害、便秘、下痢などがあります。

 副作用は、薬剤によって少し違います、頻脈、除脈など心臓に関するもの、女性化乳房、血液障害、幻覚、めまいなどの中枢症状、胃腸障害を起こすものもあります。しかし、抗ヒスタミン剤(H2ブロッカー)は8周以上の長期服用の場合が多く、外来患者の30%近くは胃炎、胃潰瘍であり、そのほとんどの患者に処方されていることを考えると副作用の確率は少ないといえます。

プロトンポンプ阻害剤 胃壁での胃酸分泌は、胃壁の壁細胞からプロトンチャンネルというところから、水素イオンが排出されます。また、プロトンチャンネルと同時に塩素チャンネルからも塩素が排出され塩酸となります。水素イオンの排出の代わりにカリウムイオンが壁細胞に取り込まれて電気的には平衡を保ちます。
 これをプロトンポンプといいますが、このプロトンポンプでは、水素イオンを壁細胞から外に出す酵素を阻害して、水素イオンが排出するのを妨害します。
 プロトンポンプ阻害薬は、最強の胃酸分泌阻害薬ですが、使用できるのは胃潰瘍で8週、十二指腸潰瘍6週までしか使用できません。それ以上の期間の使用は危険とされています。
 副作用は、ショックなどのアレルギー反応、血液障害や肝機能障害などの副作用があります。

抗コリン剤 コランチルなどにも抗コリン剤は配合(塩酸ジサイクロミン)されていますが、胃潰瘍ではあまり使用されなくなりました。胃炎では今でも使用されます。
 コリン作動性神経も、受容体は、アセチルコリン以外の薬物にも反応し、ニコチンに反応してムスカリンに反応しない受容体と、その逆の受容体があり、ムスカリンに反応する受容体をムスカリンレセプターといいます。ムスカリンレセプターを選択的に阻害すると胃酸を分泌抑制します。
 臭化チキジウム(チアトン)や、塩酸ピレンゼピン(ガストロゼピン)などがそれで、これらは、胃酸分泌を刺激するガストリンを抑制する事も知られています。
 副作用は、口渇、排尿困難、動悸などです。

防御因子増強剤 胃壁の防御因子を増強するもので、キャベジン、イサロン、ノイエル、セルベックス、など多数あります。口渇、便秘などの副作用があります。

ヘリコバクター・パイロリ(ピロリ)に対する治療。 従来は、上述のように、胃潰瘍はストレスが原因とするストレス学説が通説でしたが、胃潰瘍の再発率は高く、長時間かけても治療効果があがりませんでした。もちろんストレス学説にいわれるとおりの原因の胃潰瘍もありますが、ピロリ菌を除去することにより、再発率は1年で60%程度なのが10%未満にまで低下した事で、胃潰瘍はピロリ菌の感染症である場合が多いという事が分かりました。

 ピロリ菌は、アンモニアを作る酵素を出し、粘膜の防御機構を破り、胃酸も中和して、ピロリ菌自体が胃酸のある胃粘膜の上で生活できるようにし、またピロリ菌は粘膜溶解酵素も出し粘膜自体も溶かしてしまうといわれています。しかし、今のところ詳しい事は分かっていません。

 具体的に、ピロリ菌を除菌するには、抗生物質を使用します。また、胃内のpHを上げると、抗生物質の効果が上がり、ピロリ菌の活動を抑制するので、最も強力な胃酸分泌抑制剤であるプロトンポンプを併用し、抗生物質は大容量を2~3種類使用します。
 抗生物質は、アモキシシリン、クラリスロマイシンが使用されます。



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